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SDGs特別対談 第1弾 キッズドア×メディカルトリビューン

新着情報
2024.06.05

子どもは未来を拓く扉-「チャンスは平等」な社会を構築したい

2020年の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的なパンデミック以降、日本の子どもたちの貧困問題・格差問題が一段と深刻化しています。こうした中、株式会社メディカルトリビューンは2024年2月にサステナビリティ基本方針を定め、社会貢献と企業価値向上の双方に注力すべく、サステナビリティ経営を推進しています。当社がステークホルダーの皆様と共に創り上げたい「価値」について語り込む対談企画の第一弾となる今回は、認定NPO法人キッズドア理事長の渡辺由美子氏と当社代表取締役社長の丸林哲也が子どもの未来について語り合いました。

本稿はダイジェスト版です。全編はMedical Tribuneウェブ内のこちらをご覧ください。

●世界で一番就労率が高い日本、なのに貧困率も世界で最高

丸林:キッズドアは、子どもの貧困を筆頭に子どもをめぐる社会課題の解決に取り組んでいるNPO法人です。2007年の設立当時といまとでは子どもを取り巻く環境もだいぶ変わってきているのでしょうか?

渡辺:国も子どもの貧困が大変な問題だということを認識するようになりました。そのような認識の下、熱心に対策に取り組んでいるので、給付型の奨学金制度が出来たり、わたしたちも行政から委託を受けて子どもに無料で学習会を提供したり、対策は進んでいます。ただ、社会的格差が広がっています。いわゆる「ダブルインカム」、共働きの方たちがお子さんを持つようになり、世帯年収1,000万円超の家庭が増えているのです。その一方でひとり親になる方も増えています。年収500万円というと昔は中流という意識が強かったと思うのですが、実質賃金は上がらず物価は高騰する中では、「大変だ、育てられない」という実感も強くなっています。社会保障費もどんどん上がってきていて、(低所得家庭では)「子育てがつらい」という状況があります。

丸林:可処分所得が減っているんですね。

渡辺:わたしたちが支援している先は母子家庭が多いのですが、母子家庭というと国からいろいろな支援があり、そのお金でなんとかやりくりして子どもをきちんと育てていると思っていらっしゃる方も多いかもしれません。しかし母子家庭への国の支援は非常に少なく、子どもを食べさせるために仕事を2つも3つも掛け持ちしているというのが一般的です。パートの母親が多く、正社員にはなれず、毎月の収入は手取り10万円という方もいらっしゃいます。そこから家賃を支払うと、生活は本当に大変ですよね。日本のひとり親は世界で一番就労率が高いのに貧困率も世界で最高というのが現状です。世界一のワーキングプアそのもので、お子さんもお母さんが頑張っていることはよく分かっているし、お母さんが悪い訳ではないことを知っていますから、(お子さんが)何も望まなくなってしまうという現実があります。ひとり親は自助でできることは全部やっているのです。しかし社会構造上、貧困から抜け出せない。ここから先は共助や公助で支えていかないといけません。子どもに罪はないのですから。

●「どんな境遇に生まれてもチャンスは平等にあるべき」

渡辺:日本人はなかなか「助けて」と言い出せないんですよ。だから貧困が見えにくいのです。

丸林:確かになかなか声を挙げられないですよね

渡辺:先ほど国からの支援は非常に少ないという話をしましたが、ひとり親家庭への公的支援は、親一人子一人(の家族構成)で年収173万円を前提に計算されています。それを社会貢献活動にも熱心な外資系金融機関に勤務しているアメリカ人の友人に話したら、「え、それは月収173万円ですか?」と聞き直されてしまったんです。「いやいや年収です」と返したら、「この東京で、月額15万円弱で本当に大丈夫なのですか?」と驚かれて。ひとり親家庭って本当にお金がない中でなんとかやりくりしてやっているのですけど、そうでない裕福な方からすると、ひとり親家庭の現実が見えにくい、まさに相互理解が出来ていないんだろうな、というエピソードです。

無料学習会に通ってくるお子さんは最初、ちょっとひねくれていたりするのですが、社会の温かさに触れ少しずつ変わっていくんです。キッズドアの無料学習会で大学に進学できた子は「キッズドアでアルバイトさせて下さい」「ボランティアで何かやれることがあればやらせて下さい」と言ってうちに戻ってきてくれます。子どもを支援することで、将来的に、それが返ってくるのです。

丸林:社会に還元したいと思うのでしょうか。

渡辺:はい。いつかキッズドアのような団体がなくても子どもたちが前向きに生きられるような世の中になって欲しい、と思っています。わたしたちはひたすら現金給付をもっと行うべきだなどとは考えていません。子どもはどんな境遇に生まれてもチャンスは平等にあるべきだと思っています。具体的に言うと、私立大学の医学部を受験するには1校当たり約6万円の受験料が必要で、国公立大学でも3万5,000円かかります。どうやってもその受験料が用意できない家庭が存在するのです。せめて受験料は無料にしてほしいという声もあるんです。親だったら、あちこちに頭を下げて回って頼めば受験料くらいは工面できるのではないか、と思いがちですが、日本ではお金のない人には貸さないんです。お金に困っていると言うと、5万円、10万円の話と思いがちなのですけど、いまの日本の子どもの話では5,000円、1万円なのです。これがお金のない家庭のつらさです。

丸林:どうにもならないのですね

渡辺:本当にどうにもならない。子どもとしては、この親の元に生まれたから自分はチャンスがなくなるかもしれない、という現実の中にいるわけですから、キッズドアとしてはチャンスだけはつくってあげたいと思っています。

渡辺由美子氏/認定NPO法人キッズドア理事長

千葉県千葉市出身。千葉大学を卒業後、大手百貨店、出版社勤務を経て、フリーランスのマーケティングプランナーとして活躍。配偶者の仕事の関係で1年間の英国滞在を体験した後、2007年に任意団体キッズドアを設立(2009年にNPO法人化)。「日本のすべての子どもが夢と希望を持てる社会へ」をビジョンに掲げ、東京都と近郊、宮城県などで小学生から高校生世代の貧困家庭の子どもたちを対象とした無償の学習会の開催やキャリア支援などの活動を展開している。内閣府こども家庭庁こども家庭審議会こどもの貧困対策・ひとり親家庭支援部会臨時委員などの委員も務める。

丸林哲也/株式会社メディカルトリビューン代表取締役社長

福岡県久留米市出身。九州大学を卒業後、商社系Sler(System Integration)に新卒入社、システム開発やコンサルティング業務に携わる。2012年桜十字グループ入社、経営企画職等を経て、2017年メディカルトリビューンに出向、2020年同社代表取締役社長